狩りの合間の、短い休憩時間だった。
タナトスタワーの10階。呪われた塔の最上階もほど近い場所に、彼らはいた。
既にして1時間ほど狩り続けたパーティの面々は、まだ大分余裕があるようではあるが、その顔からは若干疲れの色が拭えない。
慎重に周囲を確かめて上層へ登る階段付近に集まり、魔物の気配が薄い事を何度も確かめる。やがて安全を確認できたパーティは、各自思い思いの姿勢で体を休め始めた。
「怪我してる人いる?」
アークビショップに問われ、数人がばらばらと手を挙げる。すぐさま祈りの声が辺りに満ち、強い癒しの力を宿した光が、一人ひとりに降り注いだ。
体をほぐしてストレッチを始める者、ポーションのボトルを呷ってのどの渇きを潤す者、壁に寄りかかって蹲る者。雑談に興じて張り詰めていた精神を癒し、緊張をそっと解く者。
「30分ぐらい休んだら、もう少し頑張ろう」
パーティリーダーの声に、みな顔を見合わせ、そして頷いた。
なにしろ、遠路はるばるやってきた狩場だ。1時間やそこらの狩りで帰っては、持ち帰る物が少なすぎる。
「鎧が結構出てるよ、カートが大分いっぱいになって来たんだけど、どうする?」
「そいつは重いだけだから、宝石の方を優先してくれ」
仲間たちの荷物を預かるホワイトスミスと拳聖が相談するのを、ぼんやりと他人事のように眺めていたクラウンは、ふとグランペコの影に長々伸びる人影に気付いた。
同行のワンダラーから分けてもらった喉飴を舌で転がしながら覗いてみると、ロードナイトやパラディンが降りたペコたちが羽根を膨らませて休む傍で、赤毛のパラディンが眠っていた。
「……太陽?」
そっと呼びかけてみるが、横たわったパラディンは目覚める気配がない。
石造りの階段に金属の鎧では、体が痛いばかりではないだろうか。そっと気遣い眉を潜めたクラウンは、パラディンの傍らに腰を降ろすと、柔らかな赤い髪を撫でた。
重厚な鎧と盾でその背に仲間を守るパラディンにしては、目の前で眠る彼はいささか小柄で細い。若干周囲のパラディンより体力で劣る彼は、激しい狩りで疲れてしまったのだろう。
気を失うような眠りを貪る顔を見詰め、クラウンは愛し気に目を細めた。
彼との出会いは、10になった頃だった。その頃の二人はまだ将来も定まらぬ剣士とアーチャーで、未熟な手足を精一杯振り回して日永一日、夢中で草原を駆け回ったものだ。
そして、緑萌える草の上で、こんな風に疲れはてて眠る彼を、何度も見守ってきた。
駆け出しの弓使いを守るため、まだ小さい手には大きすぎる剣を懸命に振り回していた背中は、今も変わらず、クラウンを守るために敵の前に立ちはだかる。
「いいんだよ、僕は、あの頃より強くなった」
鎧を撫で、ひび割れを指先でなぞる。敵の剣を受け止め、攻撃を弾いた分だけ付いた傷を数えて、ぽつりと溜め息を落とす。
人並み外れた体躯はパラディンの背をとうに追い越して久しく、おそらく今となっては彼よりもはるかに丈夫だろう。弓を射るのが下手だったアーチャーは、今や一端の歌い手として、前衛たちの背を預かれる腕を持っている。
だから、小さい頃に頼もしく見上げた背中が、変わらぬ意思の強さを背負って立ちはだかるのが、少しだけ悲しい。
かつて友情なのか恋なのかも分からなかった幼い気持ちは、今は歌よりも強く胸の内から湧き出る愛慕だと確信している。彼を愛おしいと思うほどに、歯を食い縛り、時に傷ついて血を散らしながら盾を翳すパラディンの姿を見るたびに、胸の奥がずくりと痛い。
パラディンが自分を守ろうとするように、クラウンもまた、パラディンを守りたいのだ。
周囲の目を憚るように、低く鳴き交わすペコの影で、そっと額に口付ける。
「ん……」
唇が触れた瞬間、微かな声を上げ、パラディンが身じろいだ。
思わず飛びすさる勢いで離れたクラウンを、眠気を帯びた金色の瞳が見上げ、ゆるりとあたりを見回す。
「もう、再開?」
階段は、他のパーティが休憩場所を求めて退避してきたせいで、にわかに騒がしくなっていた。
「ううん、もう少し休めるよ。僕が起こすから、もうちょっと寝てたらいいよ。疲れてるみたいだし、膝枕してあげるから」
石段を枕がわりにするよりは、男の脚でも多少はマシだろう。
眠そうな声がありがとうと呟き、傍らに座りなおしたクラウンの膝に頭をあずけ、眼瞼を落とす。
「おやすみ、僕の太陽」
うとうととまどろむ顔に囁き、手繰り寄せたリュートで爪弾くのは、昔聞いた単調な子守唄。
束の間の眠りを守るために、もう少しだけ。
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